鹿児島地方裁判所 昭和42年(ヨ)24号 決定 1967年5月18日
債権者 井上実
右訴訟代理人弁護士 池田惟一
同 吉田稜威丸
債務者 鹿児島運輸株式会社
右代表者代表取締役 森幸吉
主文
債務者は昭和四二年三月二四日の臨時株主総会で選任した鹿児島運輸株式会社の取締役森幸吉、同森邦昭、同富田伊三次、同神戸政久および監査役辺木園憲衛をしてその職務を執行させてはならない。
右各職務執行停止期間中別紙目録記載の者をして、鹿児島運輸株式会社の取締役および監査役の各職務をそれぞれ代行させる。
訴訟費用は債務者の負担とする。
事実
(当事者双方の申立て)
一 債権者
昭和四二年三月二四日債務者の株主総会で選任された取締役森幸吉、同森邦昭、同富田伊三次、同神戸政久、監査役辺木園憲衛は本案判決に至るまで職務を執行してはならない。右各職務執行停止期間中裁判所の選任する債務者の取締役および監査役に各職務をそれぞれ代行させる。
二 債務者
本件申請を却下する。
(債権者の主張)
一 申請外森幸吉、同富田伊三次は、同人らの申請により鹿児島地方裁判所が昭和三九年三月三一日になした昭和三九年(ヒ)第三号株主総会招集許可決定(目的全取締役、監査役解任の件、後任取締役、監査役選任の件)に基づき、同年四月一八日鹿児島運輸株式会社の臨時株主総会(以下「第一総会」という。)を招集したが、右森、富田らの持株に疑義があったため議事に至らず流会となったので昭和四二年三月二二日再び右株主総会の続行総会として、右会社の各株主に対し同年同月二四日に臨時株主総会を招集する旨の通知を出した。
二 右招集により開催された臨時株主総会(以下「本件総会」という。)において前記森幸吉、富田伊三次、申請外森邦昭および同神戸政久をいずれも債務者鹿児島運輸株式会社の取締役に、申請外辺木園憲衛を監査役に選任する旨の決議がなされ、森幸吉については同日取締役会で代表取締役に選任の決議がなされたものである。
三 しかしながら
1 前記森幸吉、同富田伊三次の前記裁判所の許可決定による臨時株主総会の招集権は、第一総会のときならともかく、右総会と元来一体をなす続会ないし延会として招集しうる期間を超えて第一総会後すでに三年程を経過している本件総会では既に消滅していたものとみるべきで従って本件総会は招集権なきものの招集した重大な瑕疵があるうえ、右招集通知は法定の手続を経ない違法なものである。
2 よって債権者は債務者の株主(持株数九〇株)として本件総会の決議不存在または無効の確認ないし決議取消の訴を提起するつもりであるが、本件総会により選任されたと称する前記二記載の役員らが、現にその地位をほしいままにしている事実があり、債務者にとって不測の損害を蒙る急迫なる事情があるので、本件仮処分の申請に及んだ次第である。
(債務者の主張)
債権者の主張一の事実中第一総会が流会となったのは前記森らの持株に疑義があったからであるとの点は否認する。その余の事実は認める。同二の事実は認める。しかしながら、昭和三九年四月一八日開催の第一総会以来本件総会まで三年間の長年月がたっているのは第一総会において債権者が前記裁判所の招集許可決定を無視して議事の進行を妨害したので警察官の介入を求めて鎮静せざるをえず結局流会となったためである。しかも債権者があくまで前記森幸吉の株主権を争うので、右森は株主権を確定するため他から譲渡を受けていた株式につき債務者に対し株式名義書換請求の訴(鹿児島地方裁判所昭和四〇年(ワ)第四二三号)を提起し、昭和四二年三月二〇日、右森勝訴の判決(現在控訴中)を得ると、直ちに前記裁判所の株主総会招集許可決定に基づき右森および富田において債権者の主張一のとおり本件総会の招集通知を発した。従って短期間に総会の目的を達しえなかったのはやむを得ない右事情によるものであるから、右森、富田の株主総会招集権は決して消滅しておらず、しかも本件総会は前述の如く続行総会であるから、商法第二三二条第一項の期間をおく必要はなかったもので本件総会の招集に格別違法はない。
(疎明)≪省略≫
理由
債権者主張一(第一総会の成立の点を除く。)および二の事実は当事者間に争いがない。そこで、昭和三九年四月一八日招集された鹿児島運輸株式会社の第一総会が成立したかどうかについて考察すると、≪証拠省略≫を総合すれば、右総会において定足数をみたす株式を有する株主が出席し、前記森幸吉を議長に選出し次いで議事に入ろうとしたところ、当時事実上債務者の代表取締役であった債権者は招集権者である右森、富田伊三次の株主権を認めず、口論となり警察官の介入をまねくに至り結局議事に入らないまま、しかも次回総会の日時場所を決議することなく散会した事情の疎明がある。
右事実によれば右森、富田の招集にかかる昭和三九年四月一八日の第一総会は一応成立したものとみうるところ、裁判所の許可決定によりいわゆる少数株主が行使しうる株主総会招集権は一度行使されて総会が成立した以上その目的を達しているとみられるばかりでなく、また総会において延期、続行の決議がなされるなど特段の事情のない限り、それより三年程経過し、当時と事情も相当変更したことの窺われる本件総会のころには、もはや同人らには同一事項を目的とした総会を再び招集する権限は消滅していたものといわねばならない。そうすると、債権者主張の本件総会の招集通知を発する期間の瑕疵の点については、さらに判断するまでもなく、本件総会の前記決議は不存在すくなくとも無効といわざるをえない。そうして、≪証拠省略≫によれば債権者が債務者の株主であり、債権者本人尋問の結果により本件総会において取締役に選任された前記森幸吉らが役員として活動を開始していることが疎明されるので、本件仮処分申請は本案係属前の急迫なる事情の疎明があるものとして、これを認容すべきものである。
よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 松本敏男 裁判官 吉野衛 松本昭彦)
<以下省略>